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核融合技術をリードするTAE Technologies。コアとなる「FRC」とは

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AE Technologiesは、高エネルギー中性子を出さないアニュートロニック核融合発電技術の開発を進める。アニュートロニック核融合は高温プラズマを長時間閉じ込めることが課題であったが、2022年には75m℃のプラズマ温度を達成し、2023年には核融合の測定に成功した。

本稿では TAEの技術的特徴や資金調達の進捗、他社との提携などについて紹介する。

TAE Technologiesの企業概要

  • 設立年:1998年
  • 拠点国:米国
  • 資金調達フェーズ:シリーズG
  • 資金調達総額:$1.2b(約1745億円)
  • 協業する企業・投資家(一部抜粋):
    • Google
    • 米州住友商事
    • Chevron

重水素ではなく軽水素-ホウ素核融合を採用

2つの原子に一定以上のエネルギーを与えて衝突させるとクーロン障壁を超えて原子核同士が結合する反応が起きるが、これを核融合反応と呼ぶ。代表的な核融合反応である重水素(2D、原子核構成は陽子1と中性子1)と三重水素(3T、原子核構成は陽子1と中性子2)の反応式を以下に示す。


2D + 3T → 4 He+ n(中性子)


核融合反応では、反応の前後における原子核結合エネルギーの差に相当するエネルギーが放出(または吸収)される。原子核における結合は原子間に働く化学的な結合より遥かに強いため、得られるエネルギーも膨大だ。

上述したD-T核融合反応に要する資源は地球上に豊富に存在し、反応でCO2を放出することもないため、核融合発電は究極の発電技術と目されている。2022年12月には核融合発電によるエネルギー利得が初めて1を上回り、いよいよ実用化が見えてきた。

一方で、実際の運用を考えるにあたっては解決すべき問題もある。例えば、高エネルギー中性子の問題だ。

D-T反応式を見て分かる通り、この反応はヘリウムのみならず、中性子も放出する。大きなエネルギーを持つ中性子が炉の内壁にぶつかれば、相応の損傷を与えることになるだろう。また、別の物質で中性子を吸収した場合、その物質が放射性廃棄物となる。

電荷を持つヘリウムと異なり、中性子は磁場で閉じ込めることができない。炉のメンテナンスや放射性廃棄物の処理に多大なコストが必要になれば、発電コストが大きく引き上げられることになる。

そこで、TAEはアニュートロニック核融合発電の実現を目指し、研究開発を進めてきた。これは高エネルギー中性子を放出しない理想的な核融合反応だ。

具体的には、軽水素(p)とホウ素(11 B)の核融合からエネルギーを取り出す。

 

p+11 B→ 3 4 He

 

本反応はその過程で中性子をほぼ放出しない。

また、荷電粒子を介してエネルギーを放出するため、将来的には効率的な電力への変換が実現する可能性もある。つまり、高エネルギーの荷電粒子流を熱に変換することなく電磁気的にエネルギーを取り出せるかもしれない。

デメリットは反応を起こすこと自体の難しさだ。水素-ホウ素核融合反応を起こすためにはD-T反応の 30倍の動作温度が必要と言われている。

核融合発電で不可欠となるプラズマ閉じ込めは「FRC」で実現

核融合反応を起こすためには高エネルギーの原子同士を高い頻度でぶつける必要がある。つまり、高効率な核融合反応の実現には温度、密度、閉じ込め時間の改善が欠かせない。

TAEでは、高温のプラズマを長時間一箇所に留めるにあたり、ビーム駆動の磁場反転配位(FRC:Field-reversed configuration)を採用した。

FRCは円筒形の容器内でプラズマを高速回転させる。プラズマは電荷を持つため、その運動によって磁場を生むが、この磁場を打ち消すような方向に外部から磁場をかけるのがFRCだ。形成された磁場中を運動するプラズマには内側へ引き戻されるように電磁気的な力が加わり、結果としてプラズマは容器内に長時間留まる。

TAEが開発したFRC実験装置C-2W、通称「Norman」

FRCは他の閉じ込め方式と比べて、装置がシンプルで小型化可能、かつ内側へ引き戻す力が強いという利点を持つ。

FRCの課題

一方で、原理的な欠点も指摘されてきた。

円筒容器の中心軸上、プラズマの運動によって生成される磁場と外部磁場が正面からぶつかる場所には磁場がゼロになる特異点(X-point)が存在する。磁場がゼロということは運動するプラズマに何の力も及ぼさないということだ。

つまり、この点からプラズマが漏れることが指摘されている。これを揶揄して、FRCは「穴の開いたバケツ」とも呼ばれてきた。

また、FRC容器内の磁場はプラズマの運動によって変化したり、逆にプラズマの運動が磁場の変化に影響を受けたりする。これによって非線形かつ複雑なダイナミクスを呈し、制御が難しいことも課題だ。

TAEの技術と実績

TAEは、上述の通り複数の問題を抱えるFRCに精緻なビーム制御を組み合わせることで、磁場閉じ込め時間を大幅に延長した。加速されたイオンビームはプラズマの加熱と、安定制御の双方に寄与する。

2011年には「C-2」と呼ばれるビーム駆動FRC装置で2ミリ秒を超えるプラズマ閉じ込めに成功したことを報告している。

プラズマ温度の漸進と核融合の測定

C-2後継機である「C-2W/NORMAN」では、プラズマ温度の目標を段階的にクリアし、着実に歩みを進めている。2019年にはプラズマ温度 50m℃、2022年には 75m℃の達成を報告した。

核融合反応を連続的に起こすためには1GK以上の平均プラズマ温度が必要と言われており、これを達成するために現在も研究が進められている。

ビーム駆動FRCによって水素-ホウ素核融合反応が起こせることはここに示された。次なる目標は取り出される正味エネルギーが投入されたエネルギーを超えることであり、TAEでは現在、この目標を達成するために2つの新規核融合炉「COPERNICUS」と「DA VINCI」を設計中だ。

FRC内を回転するプラズマのイメージ

提携と資金調達|企業としての動向

2014年には Googleとの協力により機械学習アルゴリズムを取り入れた。プラズマの安定動作に寄与するパラメータは未だ不明点も多いが、各パラメータ間で関係性を見出し、より良い制御技術を確立することが目的だ。2022年の温度目標マイルストーン達成には Googleの機械学習アルゴリズムも大きく寄与している。

この結果を受けて、2022年7月には次期研究炉の建設のための新たな資金を獲得したことが報じられた。資金提供を行ったのは Googleや、米石油企業のChevron、米州住友商事など。$250m(約363億円)の資金調達ラウンドの完了で、これまでに獲得した資金は合計$1.2b(約1745億円)となった。

電気の商品化にも着手

TAEは本拠とする米カリフォルニア州だけでなく、2023年5月、英バーミンガムに新たな拠点を開設。こちらでは、電気自動車(EV)やグリッド効率の商品化を進める。

すなわち、核融合技術とそれによる発電の先をすでに見据えているということだ。すでに述べたように米州住友商事からの出資や、日本の核融合科学研究所との共同研究も行われているため、今後も国際的なTAEの技術開発が期待される。



参考文献:
 ※1:重水素−トリチウム反応, 日本原子力研究開発機構(リンク
 ※2:誰でも分かる核融合のしくみ | 核融合が起こるとどうなるの?, 量子科学技術研究開発機構(リンク
 ※3:米研究所がレーザー核融合の“点火”成功で実用現実味、阪大の技術で加速も, 日経クロステック(リンク
 ※4:Direct Energy Conversion in Fusion Reactors, Ralph W. Moir(リンク
 ※5:First measurements of p11B fusion in a magnetically confined plasma, R. M. Magee他, nature comunications2023年2月21日(リンク
 ※6:極限的高ベータ配位:FRC の閉じ込め・安定性をどう理解するか?, 浅井朋彦他, 『Journal of Plasma and Fusion Research』2020年4号(リンク
 ※7:FIX Project(リンク
 ※8:History of Innovation , TAE(リンク
 ※9:A Well-Confined Field-Reversed Configuration Plasma Formed by Dynamic Merging of Two Colliding Compact Toroids in C-2, TAE※ウェイバックマシンによる記録(リンク
 ※10:TAE Technologies Exceeds Fusion Reactor Performance Goals By 250% As Company Closes $250 Million Financing Round, Totaling $1.2 Billion To Date, TAE(リンク
 ※11:核融合炉の冷却に「氷」が効果的、1億度のプラズマの冷やし方, Forbes JAPAN(リンク
 ※12:Achievement of Sustained Net Plasma Heating in a Fusion Experiment with the Optometrist Algorithm, M. Binderbauer他, Scientific Reports(リンク
 ※13:TAE Technologiesが核融合炉性能目標を250%超過達成、2億5000万ドルの資金調達ラウンド完了で総額12億ドルに, TAE, Kyodo News PR Wire(プレスリリース)(リンク
 ※14:TAE Power Solutions expands UK operations with battery testing facility for e-mobility and energy storage applications, TAE(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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