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【展示会レポート】Drone Industry Insights創業者のHendrik Boedecker氏が語る、ドローン業界の今後

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2025年6月4〜6日、幕張メッセでドローン関連の展示会「Japan Drone 2025」(一般社団法人日本UAS産業振興協議会〈JUIDA〉主催)が開催された。

この中で、4日に行われた基調講演「商用ドローン市場2025と未来:マーケット、プレイヤーそしてチャレンジ」をATX編集部スタッフは聴講した。ドローン市場調査会社のDrone Industry Insights創業者兼CFOである、Hendrik Boedecker氏による講演である。

その一部を取り上げる。

「ゆっくり」と成長するドローン市場

基調講演開始直前に編集部スタッフが撮影

基調講演に先立ち、主催者であるJUIDAの鈴木真二理事長(元東京大学大学院教授。現同大学未来ビジョン研究センター特任教授)がウェルカムスピーチを行った。スピーチによると、Japan Droneは年々、出展社数が増えており、昨年からは関西での展示会もスタート。今年も関西で11月に開催予定だという。

ドローンというと、ホビー向けのハードウエアはコモディティ化していると感じる。産業用途のものも、もしかするとその傾向が進んでいくのかもしれない。一方で、活用される場面は広がっている。例えば、農業や災害の現場などだ。よって、ドローンへの全体としてのニーズは高まっていくようにも思える。

基調講演も、それを感じさせる内容だった。

講演の冒頭、Boedecker氏は「私は航空業界に20年以上、身を置いてきた」と自己紹介。同氏のLinkedInを閲覧すると、特にLufthansa系の整備会社でエンジニアとしてのキャリアが長いと分かる。Drone Industry Insightsを創業したのは2015年なので、今年(2025年)で設立10周年となる。

最初にBoedecker氏が示したデータは、ドローン市場の2030年までの成長予測だ。年平均成長率(CAGR)で7.3パーセントになると語る。この点について、Boedecker氏は、「ドローンは『強い』市場というわけではない。ゆっくりとしたスピードで成長していく市場である。また、航空業界全体がそうだ」と説明した。

たしかに、人の作業負担を軽減するハードウエアという意味でドローンと近い分野であるロボティクスの2024〜2028年のCAGRは、11.25パーセントとなっている。少しばかり、ロボティクスの方が優位なように思える。

ドローン市場の成長がゆっくりであることの背景について、後に説明があった。

続いて取り上げられたのは、ドローン市場を「サービス」「ハードウエア」「ソフトウエア」といった3分野で、どれくらいの割合でシェアされているかだ。次の数字が示された。

  • サービス 77.9
  • ハードウエア 17.7
  • ソフトウエア 4.4
     ※単位はパーセント

ハードウエアにしてもソフトウエアにしても、ドローンの「機器」の部分の事業となる。それよりは、サービスの方が収益をあげているようだ。

「ガートナーのハイプ・サイクル」に基づけば、ドローン市場はこれから上向きに?

一方、ドローン関連企業の資金調達額は、2021年をピークに減少しているという。2021年、業界に流入した資金の総額は$3.672b(約4226億円。当時レート、断りない限り以下同)。2022年は$3.04b(約4009億円)、2023年は$1.758b(約2479億円)、2024年は$818m(約1153億円)だった。なお、2015〜2020年の間は、1.2b〜1.5b(1239億〜1549億円。2020年のレート)で推移していた。

背景には、ウクライナ戦争によって投資家が保守的な姿勢となった点があると、Boedecker氏は語る。

しかし、「ガートナーのハイプ・サイクル」(講演でBoedecker氏は「ガートナーサイクル」と呼んでいたが、ここではGartnerの正式な名称に従う)によれば、明るい先行きも考えられるとBoedecker氏は語る。ガートナーのハイプ・サイクルとは、コンサルティング企業のGartnerが革新的なプロダクトなどの登場から安定期までの市場の動きを、グラフで示したもの。以下の5つのサイクルで成り立っている。

  1. 黎明期:プロダクトが登場し、メディアなどでも大きく取り上げられる
  2. 「過度な期待」のピーク期:市場が熱狂状態になる
  3. 幻滅期:パフォーマンスの課題や投資効果の遅れなどが目立つようになり、市場が幻滅感を持つ
  4. 啓発期:プロダクトを早期に採用した企業の一部が、障害となっているものを乗り越え価値を見出すようになる
  5. 生産性の安定期:プロダクトのメリットが実証され、主流となっていく

ガートナーのハイプ・サイクル(編集部制作)

つまり、Boedecker氏が言いたいのは、資金調達・流入のピークとなっていた2021年は「過度な期待」のピーク期であり、現在は幻滅期にあるということだ。

そして、再びドローン業界が上向きの状況に転じていくには、ある課題を克服しなければならないという。それは、規制緩和である。

編集部スタッフは、とりわけ日本国内においてドローンの規制が厳しいという先入観を持っていたが、Boedecker氏の講演を聴く限りでは世界共通の課題であるようだ。やはり空を飛ぶデバイスである以上、墜落や一部部品の落下で被害が発生する可能性があり、どの程度の規制が適切なのか、まだ模索している段階であるのだろう。

また、Boedecker氏は航空・規制当局に対して「彼らは怠けているわけではない」と擁護する発言もしていた。規制に適合しているかの確認や規制そのものの改善ができるだけの人的リソースが足りておらず、また新しい技術でもあるがゆえ判断するスキームができあがっていないためである。

この点では、他のプロダクトやソフトウエアなどと同様、国際的な標準化も課題解決をスピードアップする方法の一つになるのではないかと、感じた。

なお、講演の前半でBoedecker氏は、ドローン市場は成長のスピードがゆっくりである、と話していた。たしかに、それは疑いようのない事実であるのだろうが、一方でイノベーションにより急激な成長の加速はないのだろうか。

それをBoedecker氏に問うたところ、「規制がイノベーションに追いついていない。だから、イノベーションが起こっても、スピードがゆっくりになる」という答えだった。イノベーション自体は起こっており、その実装のスピードは非常に早く行われているとも語っていた。しかし、その後の規制の存在が、ここでも課題になっているということである。

まとめ|ドローン市場は課題がありつつ着実に前進

三菱重工のブースで展示されていた大型度無人機(編集部スタッフが撮影)

ハードウエア・ソフトウエアとしてのドローンについて、少し後ろ向きな側面も取り上げたが、ATXで4月に取り上げたBRINC Dronesのように、社会的に有益と感じられるデバイスをつくるスタートアップも生まれている。

参考記事:警察・消防向けドローン開発のBRINC Dronesが110億円を資金調達。ガラス破壊で建物への進入も可能なハードウエア

一方、Boedecker氏の説明にあったように、ドローンを使ったサービスは競争が激しい分、斬新なビジネスの登場も期待できる。規制の問題はあるが、引き続き成長が楽しみな分野といえるだろう。



参考文献:
※1:『令和6年度版 情報通信白書』, 総務省(リンク
※2:ガートナー ハイプ・サイクル, Gartner(リンク


 

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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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