ニュース記事

脳波による文字入力を目指す帽子型デバイスを開発するSabiが5,000万ドル調達

米サンフランシスコのSabiは、帽子に組み込んだセンサーで脳波を測り、声や手を使わずに機器へ指示を出すデバイスを開発する企業である。頭部に装置を埋め込む手術を必要としない、非侵襲型のBMI(ブレイン・マシーン・インターフェース)を目指す。

同社は2026年10月9日、Khosla Ventures主導のシードラウンドで5,000万ドルを調達したと発表した。AccelやInitialized Capitalなども参加した。資金は計測用チップの開発、初期機器の製造、脳信号データの拡充と研究・開発人員の採用に充てる。

計測の準備を減らす帽子型設計と、新たな入力手段

脳波を日常的な入力に使うには、信号を読み取る精度だけでなく、装着時の手間を減らす必要がある。研究用の脳波計測では、電極を頭皮に密着させ、導電性のジェルを使う方式も広く用いられる。同社は髪の上から計測するセンサーを帽子の内側に収め、手術やジェルを使わない構成を採る。通常の帽子に近い外観と準備の少なさを、利用を広げる足掛かりにする狙いである。

当社メディアでも以前、ヘッドホンなどに非侵襲型BMIを組み込むNeurableを取り上げた。同社が目指すのは、集中状態の可視化ではなく、意図して思い浮かべた言葉や操作を文字・指示へ変える入力手段である。音声入力とも異なり、発話を伴わない点に利用上の可能性がある。

ただし、装着しやすさと入力性能は別の評価軸である。共同創業者のAtmadeep Banerjee CTOは、脳活動から見た画像を再構成する「MindEye」論文の共同筆頭著者であるが、この研究はfMRIを用いたものだ。帽子で測る脳波とは計測方法が異なり、同論文の成果がそのまま帽子型装置の文字入力精度を保証するわけではない。

髪越しの微弱な電気信号を、学習モデルで入力へ変換

脳波計測は、神経細胞の活動に伴う微弱な電気信号を頭部の外側から捉える技術である。頭皮から得る信号には、筋肉の活動や周辺機器に由来するノイズも混ざる。このため、センサーを小さくするだけでなく、必要な信号を安定して取り出すことが重要となる。脳波の波形自体が文章や命令を直接表しているわけではなく、計測と情報の推定を組み合わせる必要がある。

同社は専用チップを中心に構成した1〜5mmのセンサーで、髪を挟んだ最大5mmの間隔から信号を取得する設計を説明している。帽子に収めるには消費電力や発熱も抑えなければならず、計測回路から開発する点が特徴となる。ただし、この非接触計測の仕様は同社発表によるもので、日常動作中の入力性能まで示す数値ではない。

取得信号は、言葉を思い浮かべるなどの課題と対応付けた記録で学習したモデルに入力し、文字や操作の候補へ変換する構想である。同社は10万時間超の非侵襲計測データを用いたとするが、学習時間の多さだけで誤認識率は判断できない。利用者が意図した入力をどの程度正しく取り出せるかが、機器としての実用性を左右する。

試作機の公開を起点とする入力性能の検証

Rahul Chhabra CEOは、手術や研究室を必要とせず、利用者が意図して操作したいときに使える帽子型の入力手段を目標に挙げた。同社はCES 2027で初期試作機を披露する予定であり、現段階は一般販売済みの製品としてではなく、開発・実証段階として捉える必要がある。

実用化に向けて重要なのは、認識できる言葉の範囲、誤入力率、個人ごとの調整時間、動作中の安定性である。公開発表には、これらを総合的に判断できる評価結果は示されていない。装着の手軽さに加え、意図しない入力を抑えられるかが、キーボードや音声入力を補う手段となるための焦点となる。


参考文献:

※1:Sabiによる5,000万ドルのシード調達と帽子型BMIの開発計画の発表(2026年10月9日)(リンク)

※2:Sabiによる帽子型デバイスとセンサー・解析技術の公式説明(リンク)

※3:東京科学大学による非侵襲脳波計測・解析の原理と課題の解説(リンク)

※4:Atmadeep Banerjee氏らによるfMRIからの画像再構成研究「MindEye」(NeurIPS 2023)(リンク)


【世界のBMIの動向調査やコンサルティングに興味がある方】       

世界のBMIの動向調査、技術調査、新規事業機会の探索、参入戦略立案、パートナー探索などに興味がある方はこちら。

先端技術調査・コンサルティングサービスの詳細はこちら




  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

CONTACT

お問い合わせ・ご相談はこちら