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イヌの嗅覚とAIでがんスクリーニングを行う米SpotitEarlyが30億円を調達。呼気のVOCから検出

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がんスクリーニング技術を開発する米スタートアップのSpotitEarlyは2025年5月15日、$20.3m(約30億円)の資金調達を行ったと発表した。人の呼気をイヌの嗅覚とAIで分析し、がんを発見する技術開発を進める企業である。

SpotitEarlyは、2020年設立。ニュージャージ州を本社所在地としているが、4人の共同創業者は全員、イスラエルの起業家である。彼らが公表している居住地から、イスラエルにも拠点を置くと見られる。

がん検出の精度は94パーセントと訴求

2度のノーベル賞を受賞した人物の一人として知られる化学者のLinus Paulingは1971年、人間の呼気には250種の揮発性有機化合物(VOC)が含まれるとの研究結果を発表した。さらに20世紀が終わるまでの間に、Michael Phillips氏らの研究により呼気のVOCは3400種あると分かっている。

これらVOCは、がんに罹っている場合には特有の臭気特性が含まれ、SpotitEarlyに限らず呼気からがんを検出しようという試みは各国で行われている。

しかし、大きな課題がある。精密に臭気を検出する技術が一定の成果を挙げていないことだ。嗅覚という点で機械は、まだ生物に追いついていない。

そこでSpotitEarlyががん特有の臭気特性を見つけ出すために活用するのが、イヌの嗅覚とAIだ。

イヌは人間の数万倍の嗅覚を持つことが知られており、また脳の3割は嗅覚に関する機能となっている。そのため、警察機関の捜査、麻薬や爆発物の探知に活用されている。

SpotitEarlyは、公表しているだけで15頭のイヌを飼育。それぞれの個体の得意分野であるのだろう、1頭1頭に乳がんや肺がん、多発性がんといった専門分野が割り当てられている。そして、人間の呼気を嗅がせてイヌが判断に要する時間は約500ミリ秒と、1秒に満たない。

また、動物虐待につながらないよう、24時間365日体制で飼育員が付き添い。飼育場所は空調を備えるなど、健康管理を行う。

こうしたデータをAI検査システムである「LUCID Station」で、より精度を高める流れだ。SpotitEarlyは、がん検出の精度は94パーセントとしている。

SpotitEarlyによるスクリーニングのプロセスを紹介する動画

2026年に米国で検査キット発売へ

最新の資金調達に参加した投資家の名前は明かされていない。SpotitEarlyはこれまでの投資家として、元Timberland CEOであるJeffrey Swartz氏やWix CEOのAvishai Abrahami氏といったエンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)の名を挙げている。

2026年に米国で検査キットを発売する予定であり、今回、得た資金も米国での事業拡大に活用する。

SpotitEarlyのShlomi Madar氏は「当社の革新的な技術とダイナミックなアプローチを米国に導入し、毎年何百万人もの米国人の命を奪っている複雑で根深い病気を克服する。(資金調達などによって)この機会を得られたことは、大きな栄誉であると同時に大きな責任だ」とコメントした。




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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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