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プラスチックのケミカルリサイクル技術を有するAgilyx。ビジネスモデルにも特徴あり

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環境保全と資源保全の両面から求められる、プラスチックのリサイクル。とりわけ、品質の高いリサイクル品の製作につながるケミカルリサイクルは、早期に一定の技術的到達点へ行き着くことが期待される。

こうしたプラスチックのケミカルリサイクルを進める企業の一つが、ノルウェーのAgilyxだ。同社の技術とビジネスについて、取り上げる。

なぜケミカルリサイクルが求められるのか

前提として、プラスチックのケミカルリサイクルが求められる背景に触れたい。

プラスチックをいわゆる水平リサイクル(たとえば、PETボトルからPETボトルにリサイクルするなど、リサイクルの前後を比べても同等の製品であること)で再生させるならば、メカニカルリサイクルとケミカルリサイクルの2つが主な手段となる。

メカニカルリサイクルは、大雑把にいえば製品を破砕し原料として再び製品化する方法である。一方、ケミカルリサイクルは製品を化学的に解重合して、分子を再び重合させていく方法だ。

現在、プラスチックリサイクルの主流はメカニカルリサイクルであり、広く行われている。しかし、メカニカルリサイクルは何度も繰り返し再生させていくと品質が劣化してしまい、最終的にダウンマテリアルリサイクル(リサイクル前の製品より製造の難易度が低い製品にリサイクルすること。たとえば、PETボトルから衣料にリサイクルするなど)せざるを得なくなる。

この点で、ケミカルリサイクルは分子レベルまで分解するため、リサイクルを繰り返しても品質をあまり落とさずに済む。一方、前述の通り、ケミカルリサイクルは技術的に完成したと言い切れる状況ではない側面もある。

また、ケミカルリサイクルが定着すると、大掛かりな装置が必要となる、コストがかかる可能性が考えられるため、完成後はこれらが次なる課題となりそうだ。

Agilyx以外でケミカルリサイクルを進める2社

ケミカルリサイクルを進める2社を、本題となるAgilyxの前に取り上げたい。2社とも先進的な技術を有しているが、同じくケミカルリサイクルで先行するAgilyxとともに見ることで、それぞれがどういった立ち位置にあるか理解できそうだ。なお、ここで取り上げる2社とも、過去にATXで報じたスタートアップである。

まず、フランスのCarbios。酵素によるPETを分解する方法を開発した企業である。2024年4月に、フランス国内で商用規模のリサイクル工場の起工式を行った。着工前は2025年中の稼働を見込んでいたが、2024年12月、一部の資金調達に計画より遅れが出ていることを理由に、本格稼働は2027年となると発表があった。

Carbiosの工場の起工式(同社プレスリリースより)

参考記事:フランス発の酵素によるPETリサイクルのイノベーター「Carbios」

もう1社は英国のEpoch Biodesign。こちらも酵素を活用し、ポリエステルの他、ナイロンもリサイクルできることから、衣料品の再生にも活用できる技術となっている。また、AIで酵素の設計を行う点も特徴的である。

参考記事:「酵素×AI」でプラスチックリサイクル技術を開発する英Epoch BiodesignがシリーズAで27億円調達。施設建設に資金を活用

Agilyxの企業概要|関連企業・部門の事業内容は

Agilyxのロゴ(同社プレスリリースより)

Agilyxについて、まず企業概要を取り上げる。

  • 設立年:2004年
  • 拠点国:ノルウェー(設立時は米国)
  • 資金調達フェーズ:EuroNext Growth上場
  • 資金調達総額:$172.7m(約255億円)

一言でAgilyxといっても、さまざまな子会社や部門があり、事業分野を分担している。それらを表にしたので、ご覧いただきたい。

Agilyxのグループ企業・部門(公開情報より編集部制作)

Styrenyxの事業から見るAgilyxの技術

ケミカルリサイクルという視点に立つと、Agilyxの中でこの技術を活用して事業展開する部門が、Styrenyxだ。そこで、Styrenyxがモノマー化するポリスチレンの概要、技術について、そしてStyrenyxの技術が実際に活用されている場を、ここで取り上げる。

ポリスチレンとは

先程の表で触れた通り、Styrenyxはポリスチレンの解重合技術を有する。

そもそもポリスチレンとは、何か。スチレンという無色、液体の化合物を重合していったものがポリスチレンとなる。略する際は「PS」と表記する。

「スチロール樹脂」とも呼ばれることから分かるように、発泡スチロールはポリスチレンを発泡させ成形したものである。他、食品トレイやカップ麺の容器などが、主な用途だ。透明にすることもでき、この場合は光ディスクのケースにするなどが見られる。

このように、ポリスチレンは食品分野での利用が目立つ。そのため、汚れやすいのがリサイクルする上での課題の一つとなる。プラスチックだけをごみ(廃棄物)として回収する地域にお住まいの読者はご存じの通り、食品などによる汚れは洗浄して廃棄・回収するのが基本だ。この手間が、プラスチックのリサイクル率が高まらない要因でもある。

他にも、発泡スチロールの形状と軽さから分かるように、体積と比べて密度が低く輸送効率が悪くなってしまうなどといった課題がある。

Styrenyxの解重合技術

では、Styrenyxはどのようにポリスチレンをリサイクルするかを見ていきたい。

回収したプラスチックを、反応機(炉)で温度制御しながら解重合する。そして、モノマーになったスチレンをプラスチック原料にする流れだ。この原料は、バージン材と同等の品質であると、Agilyxはアピールする。

先程、ポリスチレンは食品用途となることが多いため、汚れやすくリサイクルの阻害要因となりやすい点について、触れた。しかし、Styrenyxは「Catalyst-free system(触媒フリーシステム)」という方法により、汚染されたポリスチレンも許容するとしている。どの程度の汚れまで対応できるかは、確認できなかった。

その他、スチレン生産のプロセスでグリッド電力を使えば二酸化炭素(CO2)排出を38パーセント削減、風力エネルギーを使った場合は同86パーセント削減できると、環境面でのメリットをアピールする。

Styrenyxの技術を活用する東洋スチレン

こうしたStyrenyxの技術が大規模に活用されている場が、日本にある。

Agilyxは2024年6月、千葉県市原市の東洋スチレン工場内に設けたポリスチレンのリサイクルプラントの試験運転が完了したことを発表。以降、本格稼働に移っているものと見られる。試験運転中は、1日あたり10トンのポリスチレンをケミカルリサイクルによってモノマー化、原料化していた。

東洋スチレン内のケミカルリサイクルプラント(市原市プレスリリースより)

また地元、市原市の行政は、ポリスチレンのケミカルリサイクルが始まることに際し、同市・東洋スチレン・デンカの3者で協定を締結。連携して回収を進めていくこと、以下の5品目を市内14拠点で回収することを発表した。

  • 発泡白色トレー
  • 発泡色付きトレー
  • 発泡スチロール
  • 納豆容器
  • 乳酸菌飲料容器

Agilyxが重視するアセットライトビジネスモデル

Agilyxは自社の資産を軽量化し、収益の最大化、堅実な財務体質を志向する、「アセットライトビジネスモデル」に則った事業展開を進める。2024年のアニュアルレポートでも、その旨を明言している。

具体的には、ライセンス供与やロイヤリティー、関連デバイスの販売で売上を確保。一方、自前の設備や人員は最小限にとどめ、利益を確保する。

前述の東洋スチレンのプラントに関しては、どういった契約になっているかまでは明かされていない。しかし、ポリスチレンのリサイクルにふさわしい場所を、自前で確保したわけではない点は、たしかにアセットライトビジネスモデルに沿った事業展開といえるだろう。

よって今後、どの企業がAgilyxのパートナーとなり、プラントを建設するのはどこになるかも、注目のポイントとなる。

まとめ|サステナブルビジネスで広がるライセンス供与での収益確保

最後に触れたアセットライトビジネスモデルは、Agilyx以外のサステナブルな事業を行う企業にも広がっている。その一つが、海洋の働きを活用したCO2回収を行う、Capturaだ。同社のSteve Oldham CEOは2024年10月の来日時、ライセンス供与による収益の確保をビジネスモデルとしていることを説明した。

参考記事:【展示会レポート】CapturaのSteve Oldham CEOが来日。「スマートエネルギーWEEK」での講演の模様とCO2回収の直近の動向

以上の事実は、環境保全を図ろうとする企業の、生き残りに対する「本気度」がうかがえるものといえよう。社会課題を解決するため、企業としての体質も健全であろうとする意思だ。



参考文献:
※1:Carbios(リンク
※2:Considering delayed non-dilutive sources of financing, CARBIOS postpones construction of its Longlaville PET biorecycling plant for 6 to 9 months, Carbiosのプレスリリース(リンク
※3:Epoch Biodesign(リンク
※4:Agilyx(リンク
※5:”Polystyrene Uses, Features, Production and Definition”, Woldeab H. Tesfamariam, Xometry(リンク
※6:ポリスチレンってどんなプラスチック?やさしく解説!, プラスチックのはてな(リンク
※7:【千葉県市原市】デンカ株式会社・東洋スチレン株式会社・市原市の3者でポリスチレンケミカルリサイクルに関する事業連携協定を締結しました, 市原市のプレスリリース(リンク



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  • 記事・コンテンツ監修
    小林 大三

    アドバンスドテクノロジーX株式会社 代表取締役

    野村総合研究所で大手製造業向けの戦略コンサルティングに携わった後、技術マッチングベンチャーのLinkersでの事業開発やマネジメントに従事。オープンイノベーション研究所を立ち上げ、製造業の先端技術・ディープテクノロジーにおける技術調査や技術評価・ベンチャー探索、新規事業の戦略策定支援を専門とする。数多くの欧・米・イスラエル・中国のベンチャー技術調査経験があり、シリコンバレー駐在拠点の支援や企画や新規事業部門の支援多数。企業内でのオープンイノベーション講演会は数十回にも渡り実施。

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